約180坪の敷地に建つSさん邸は、モダンで風格のある佇まいが印象的だ。存在感のあるこの邸宅を手掛けたのが、建築工房 亥の伊佐さんである。
伊佐さんは、青い洞窟を想起させる玄関アプローチや、焼き杉板を転写したひさしなどを組み合わせることで、存在感のあるエクステリアを実現した。さらに、伝統家屋の家相と暮らしの動線を意識した間取りにより、毎日の生活がラクになる空間づくりも実現している。
暮らしやすさとデザインを両立させたSさん邸の全貌を見ていこう。
精悍なファサードと青の洞窟を想わせるアプローチ
Sさん邸を見て、まず目を惹くのはその精悍なファサードだ。3つのボックスが並んだようなファサードは、真ん中に大きなボックスがあり、左右に白いボックスが配置されている。
真ん中のボックスはLDKで、幅7.2メートルの大きな開口部に深いひさしとデッキテラスを設けた。デッキテラスを囲むコンクリート壁に焼き杉板を転写することで、メリハリのある威風堂々としたデザインに仕上げている。
また、駐車場から玄関へ続くアプローチも目を惹く存在だ。
雨の日でも駐車場から濡れずに玄関までたどりつけるのがアプローチとしての役目だが、そこに青いガラスを取り入れることで幻想的な外観に仕上げている。
建築工房 亥では、琉球ガラスや月桃紙など、沖縄の素材を用いることが多い。このアプローチに使われている青色のガラスも琉球ガラスをイメージしたものだ。影の中で一直線に伸びるその幻想的な光のラインは、まるで沖縄の「青の洞窟」を想起させる。
日の高さによって影と青い光は形を変え、時間帯によって違った表情を見せてくれる。
沖縄の伝統家屋の知恵を取り入れた家相
Sさん邸の3つに並んだボックスは、正面から見て右手側が来客用にも使える和室、デッキテラスを設けた真ん中のボックスがLDK、そして左側のボックスが寝室や子ども室などのプライベートエリアになっている。正面からは見えないが、浴室や洗面所などの水回りは北西に配置した。
Sさん邸の各エリアの配置は、沖縄の伝統的な家屋にならっている。沖縄の伝統的な家屋は、南側に玄関や一番座(客間)、縁側などの開口部を設け、北西側に水回りを設けるのが一般的だ。
南側に開口部があるのは、南から心地よい風が通り抜け、温かな日差しが入るからである。反対に北西側は西日の強い日差しや北風を壁で遮るため、トイレなどの水回りを配置する。
また、Sさん邸では沖縄のアマハジのように、デッキテラスに大きなひさしを設けることで、太陽からの強い日差しが部屋の奥まで入ってこないように設計している。
沖縄の伝統家屋を見ると、各エリアが気候風土に合わせて理にかなった配置になっているのが分かる。伊佐さんは先人たちが築いてきた知恵を現代に取り入れることで、独特な気候の沖縄で、より快適に暮らせる住まいを実現した。
毎日の暮らしを楽にする考え抜かれた生活動線
建築士の伊佐さんが、今回の設計で特にこだわったのは生活動線だ。玄関に入ると、そのまま和室に上がれる動線もあれば、裏から廊下に繋がる動線もある。来客の際は和室へ案内し、毎日の暮らしでは家族が裏からそのまま廊下へ出てLDKへ移動できる仕組みだ。
また、家事動線もなるべく無駄がなく回遊できるように考えられている。例えば、アイランドキッチンを中心にしたLDKや物干し場からワークスペースへアクセスできる廊下は、日常の家事を無駄な動きなく効率的に行えるように設計した。
ファミリークローゼットは、主寝室と子ども室の両方から直接アクセスできるラインと、洗濯物を取り込んだ物干し場から廊下を介して直行できるラインを確保しているので、どのような状況でもアクセスしやすい。
また、物干し場の勝手口を使えば、部活をして泥だらけになった子どもが、そのまま洗面所を抜けて脱衣所とバスルームへ進める。
動線だけではなく、家全体がひと目で見渡せ、広々としながらも掃除もラクになる空間設計や、絶妙な間で料理が効率的に行えるアイランドとカウンターなど、さまざまなところに「暮らしやすさ」への工夫が見える。
誰もが目を惹くモダンで風格のある建物は、いざ中に入ってみると毎日の暮らしが快適になる工夫がいたるところに散りばめられており、「デザイン」と「快適性」は両立できるものだと実感させられる。
今回の作品は、沖縄に根差した建築士として長年活動してきた伊佐さんだからこそ、実現できた住まいといえるだろう。
写真ギャラリー
お家の基本情報
所在地 | 沖縄県八重瀬町 |
敷地面積 | 594.48㎡ |
延床面積 | 186.03㎡ |
竣工年 | 2023年 |
用途地域 | 市街化調整区域/未指定 |
構造 | 壁式鉄筋コンクリート造 |
設計 | 株式会社 建築工房 亥 担当:伊佐 強・松田 笑里 |
この作品を手掛けた設計事務所
建築工房 亥
私たち亥では、オリジナリティ溢れた心地よい住空間をテーマに、クライアントと一緒に理想的な住宅を造り上げることを念頭にコミュニケーションを取りながら、共同作業として完成まで責任を持って取り組んで行きます。
1 つの住宅には、それぞれの未来があり、ドラマがあります。末永く愛され続ける建築を目指し邁進していきます。